

中高一貫校教師歴30年で自身の2人の子供も中高一貫校に通わせたベテランライターが、「中高一貫校を選ぶデメリット」について解説します。
結論から言えば、
- 必ずしも希望の進路に合格できるわけではない
- 人間関係が限定されやすい
- 学習にも生活にもゆとりがなくなる
- 6年間の費用負担が大きい
この4点は避けては通れません。
中高一貫校は6年間環境を変えることができないからこそ、デメリットを知った上で選ぶことが大切です。
この記事を読めば、後悔しない志望校選びの視点がクリアになるはずです。
このページの目次
中高一貫校とは?非中高一貫校との違い
中高一貫校とは、その名前の通り「中学」と「高校」が一体化した学校です。中学から高校までの6年間、一貫した教育方針の元で教育を受けられるのが魅力です。
例えば、公立中学から高校(進学校)に進学したとしましょう。
中学では学習指導要領に従って、基礎学力定着を目的とした指導を受けます。
高校で進学校に進んではじめて、大学進学に向けて、本格的な受験対策が始まります。
中学での基礎の定着も大事ではありますが、学力が高く、すでに大学受験を見据えている人には物足りないかもしれません。
中高一貫校なら、入学したばかりの中1から、大学受験を見据えた勉強が始まります。その差は大きいですよね。
目的別に分類した中高一貫校の3つのタイプ
中高一貫校を大きく3つのタイプに分類します。6年間の学校生活を考える上で参考にしてください。
進学校タイプ
大学進学に向けた学習がメインの学校です。開成・桜蔭・灘といった超難関中高一貫校をはじめ、多くの中高一貫校はこのタイプに属します。
多くの進学校タイプの学校では、先取りカリキュラムが採用されています。
それぞれの学校に独自性がありますが、高2までに(主に英数の)6年間の学習内容を終了し、最後の1年間を入試演習に充てるのが標準的です。
進度が早いだけでなく、授業や定期テストがハイレベル。カリキュラムを消化することで大学受験に対応する学力が身についていきます。
実際に難関大学合格者の多くは進学校タイプの中高一貫校出身です
詳しく知る:
大学附属タイプ
系列大学への進学を前提とした学校です。大学の求める学力観に合った教育をします。
良い意味で、偏差値にはこだわらない教育が可能です。
慶應義塾中等部・早稲田大学高等学院中学部・同志社中学などが大学附属タイプです。
このタイプには、附属・系属などさまざまな種類があり、必ずしも全員が大学に進学できるわけではないので、事前の調査が必要です。
【早稲田大学附属・系属中高一貫校】 附属校:早稲田大学高等学院中学部・早稲田高等学院(大学推薦枠100%) 系属校:早稲田実業(大学推薦枠100%) 系属校:早稲田中学校・高等学校(大学推薦枠50%) 系属校:早稲田佐賀中学校・高等学校(大学推薦枠50%)
参照:早稲田大学 高大接続推進課「附属校・系属校とは」
特色タイプ
偏差値だけに捉われず、特色あるカリキュラムが用意されている中高一貫校もあります。
語学学習や留学などのグローバル教育、プログラミングなどのIT教育、情操教育など、それぞれ魅力的な教育を行っています。
また、中高一貫の6年間で部活を強化する学校も増えています。
特色タイプの学校も、勉強もしっかりと取り組み、大学進学実績が十分な学校が多いです。
中高一貫校の4つのデメリットとは? 後悔する可能性のあるポイントを解説
デメリット1:必ずしも希望通りの進路に進めるわけではない
中高一貫校で過ごす6年間は、心身ともに成長する時期と重なります。
学校生活にアジャストできるかどうかで、二極化してしまうのが、中高一貫校の特徴です。
勉強が低迷し、中学受験の偏差値からすると、ランクの低い大学しか合格できない人がいるのも事実です。
進学校タイプ
有名中高一貫校に合格したからといって、当たり前ですが、難関大学合格が保証されているわけではありません。
進学校タイプならではの事情により、成績が低迷するケースがあります。
例えば、先取りカリキュラムなので、授業が早いペースで進み、授業内容やテストが難しくなります。その上、同級生はハイレベル。
家庭学習を怠れば、思いがけず成績が低迷。モチベーションが上がらないまま、下位から抜け出せなくなることがあります。
中学受験がゴールになってしまい燃え尽き症候群になるケースや、高校受験がないために中だるみするケースなど、中高一貫校特有の理由で勉強を疎かにする生徒もいます。
「このままではマズイ」と勉強を立て直そうとした時には、進度の速さゆえに手遅れになり、勉強がわからないまま受験期に。
こうしたケースで大学受験で失敗する生徒がいるのも事実です。
中高一貫校を語る上で、成績が下位に低迷して6年間抜け出せない生徒を「深海魚」と表現することもあります。
詳しく知る:
大学附属タイプ
早慶はもちろん、GMARCHレベルの附属中高一貫校は非常に人気で、偏差値も高いです。
合格するのが難しいにも関わらず、必ずしも全員の希望の大学・学部に進学できる訳ではありません。
附属・系属高校から大学への推薦枠が決めれれていて、推薦枠が100%でない学校もあります。つまり、成績次第では大学に入学できません。
また、大学に入学できても、学部毎の枠があるので、希望する学部に進学できないケースがあります。
【WAYSによる主な附属・系属中高一貫校からの大学進学紹介記事】
詳しく知る:
系列大学によっては、自分の行きたい分野の学部がないということもあります。
中学入学時は親に勧められたものの、中高で視野が広がり、将来の夢が変わるのは珍しくないからです。
結果的に、進路の選択肢を狭める可能性も否定できません。
特色タイプ
中高一貫で部活を強化している学校には、優秀な選手が集まってきます。
力が足りずに、6年間レギュラーになれずに卒業を迎えるケースがあります。
また、怪我などでプレーできなくなってしまうと、思い描いた学校生活ではなくなってしまいます。
デメリット2:6年間を同じメンバーで過ごすため、人間関係が狭くなる
中高一貫校では、6年間、同級生の顔ぶれが変わりません。小規模な学校では人間関係が限られてしまいます。
非中高一貫校では、中学、高校と環境が変わるたびに世界が広がっていきますが、中高一貫校は違います。
お互いをよく知った級友と密度の濃い関係性は築けますが、交友関係が広がらないのも事実です。
高校から新しく生徒を入れる中高一貫校もありますが、
- 進度の関係で別クラスで過ごす
- 習熟度別クラスを取り入れていて、結局は6年間クラスメイトがほとんど変わらない
学校によってはこうしたケースもあります。
中高一貫校には男子校や女子校が多いです。
異性の目を気にせずに、個性を発揮できるのは魅力ですが、一方で、ジェンダーの役割を区別しなくなった現代社会には相応しくないと考える方もいるかもしれません。
デメリット3:受験に対応するための様々な取り組みで実は忙しい
高校受験がない分、伸び伸びと6年間が過ごせると考えている親御さんもいることでしょう。
実際に、「中学受験が終われば自由だよ」とお子さんを励まされている方もいるかもしれませんね。
しかし、校風によっては入学後も忙しい生活が待ち受けています。
自由な校風の進学校は多いと思いますが、面倒見の良さを謳っている学校では、課題、居残り学習、補習が多い傾向があります。
大学受験を目標にしているので、定期テスト、実力テスト、模試、検定試験、クラス編成テスト、高校進級認定テストなど、各種テストが設定されています。
1ヶ月に1回のペースで試験があるような学校も少なくありません。
このペースだと、試験が終われば、すぐに次のテスト勉強を開始する必要があります。
また、単純に、通距離通学も大変です。
通勤ラッシュや乗り換え、重い荷物を持っての通学だけでも負担は小さくありません。
部活動や7時間授業などで帰宅が遅くなるお子さんもいるでしょう。
デメリット4:授業料以外も含めてもやっぱり費用がかかる
中高一貫校に進学を決めた時点で、すでに覚悟はしていると思いますが、やはり費用がかかります。
文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」によると、私立中高一貫校の6年間の学校教育費は、平均で約568万円と示されています。一方で、公立中高の6年間だと約151万円となっています。
詳しく知る:
高校からは就学支援金制度があり、所得によっては就学支援金を受けることができます。
東京都では就学支援金に上乗せして、授業料軽減助成金を独自で支給しています。令和6年度からは授業料軽減助成金の所得制限が撤廃されて、全世帯を対象に実質無償化されました。
中学段階においても、東京都では所得にかかわらず、年間10万円を上限に支給する授業料軽減助成金制度を実施しています。
ただし、義務教育段階ということもあり、高校と比較して支援額は高くありません。
私立中学の1年間の学校教育費平均は約113万円、一方で公立中学だと約15万円です。ここの差は大きいままです。
もちろん学費だけではありません、交通費、教材費、修学旅行積立費(海外の場合もあり)、ICT費(ダブレット端末代)、オンライン英会話実習費、etc、充実した教育やさまざまな経験ができますが、それだけ経費もかかります。
経済的にゆとりのある家庭が多いので、交際費も高くなる傾向があるのも想定しておきましょう。
参照:東京都「所得制限なく私立高校等の授業料支援が受けられます」
参照:東京都「所得制限なく私立中学校等の授業料支援(10万円)が受けられます」
中高一貫校選びで後悔しないための大切な視点
志望校を決めるにあたり、偏差値や大学合格実績は重要なポイントだと思います。
ただし、この点だけを重視してしまうと、思いがけない落とし穴があることを覚えておいて下さい。
何がなんでも難関大学を目指すのか?
厳しい中学受験を乗り越えた先に、念願の志望校合格があります。親子で必死の思いで勉強して勝ち取る合格でしょう。
それでも志望校合格がゴールになってしまうのは良くありません。
中高一貫校では先取りカリキュラムで、早いペースで授業が展開されます。数学を基準に考えると、文系数学は高1で終了、理系数学でも高2で終了します。
日常的にハイレベルな問題を解いていますし、高3の1年間はみっちりと入試問題対策ができます。
しかし、ハイレベルであるからこそ、ついていけなくなる人がいるのも事実です。
東大・京大・東工大・医学部を何がなんでも目指すのであれば、中高一貫校の先取りカリキュラムとハイレベル授業が圧倒的に有利です。それは間違いありません。
実際に合格実績では中高一貫校が群を抜いています。
また、旧帝大・TOCHY・早慶、とりわけ理系においては、中高一貫校は有利と言えます。
有名中高一貫校に合格できるようなお子さんは、勉強の才能が豊かでしょうから、しっかり伸ばしてあげるのは素晴らしいことです。
しかし、誤解を恐れずに言うと、誰もがそこまで学力が高い訳ではありません。
お子さんに本当に難関大合格を望むのでしょうか?
GMARCH・関関同立・地方国立大を目指すのであれば、先取りカリキュラムでなくても十分に合格レベルまで対応できます。その事実は踏まえておいてもいいかもしれませんね。
中学受験から中高一貫校卒業まで、勉強に追われてばかりでなく、伸び伸び過ごして欲しいと考える価値観があってもおかしくありません。
あえていうなら、中学英語だけ、英語塾を使って英検準2級(ないし2級)を目安に先取りすれば、文系3科目なら、非中高一貫校でも十分に対応できます。
詳しく知る:
受験制度が変わり推薦入試枠が拡大
推薦入試枠が拡大され、約半数の高校生が推薦(学校推薦型選抜・総合型選抜)で大学に進学する時代です。
2024年度入試において、一般選抜で入学した生徒の割合は47.5%となっており、半数以上の生徒が一般選抜以外の方法で進学しています。
親世代に比べて明らかに推薦入試枠が拡大しています。
推薦入試では何より評定が大事です。レベルの高い中高一貫校で評定を上げるのに苦労すれば、推薦入試では不利になります。
非中高一貫校からでも、勉強、部活、行事などを両立して、推薦で大学進学するケースも少なくありません。
参照:文部科学省「令和6年度国公私立大学入学者選抜実施状況」
中高一貫校で後悔しないためには校風に納得するのが大事
あえて中高一貫校のデメリットを説明してきましたが、実際は、ほとんどの中高一貫校生が充実した6年間を過ごしています。
「ハイレベルで役立つ授業」「多感な時期の多様な体験活動」「志を同じくする同級生」「6年間だからこその深い人間関係」「充実した設備」などなど、中高一貫校には魅力が詰まっています。
私自身も中高一貫校に勤務して30年になりますが、やっぱり中高一貫校に魅力を感じています。
そうした魅力が多いからこそ、偏差値や大学合格実績だけに目を向けるのではなく、しっかりと校風に納得をして欲しいのです。
お気づきだと思いますが、デメリットは全てメリットの裏返しです。勉強が大変なので、落ちこぼれる人がいるかもしれませんが、大学合格実績が素晴らしいのです。
お子さんに合った中高一貫校で、前向きな気持ちで6年間を過ごせば、ここで挙げたデメリットは全てメリットに感じるはずです。
「公立中→高校受験ルート」も実は十分に魅力的
さて、中高一貫校のデメリットを踏まえると、「公立中→高校受験ルート」も十分に検討の価値があります。
ここからは、高校受験を選んだ場合のポイントを整理しておきます。
基礎重視のつまずきにくい学習設計で、「下ブレのリスク」が小さい
中高一貫校では、進度が速く難易度が高いので、成績が二極化する傾向があります。
レベルが合わないと学習について行けなくなります。結果的に、望んだ進路に進めないケースがあります。
公立中のカリキュラムは「基礎重視」で、誰も取り残さないことを前提に丁寧に進みます。
「授業で理解→準拠ワークで演習→定期テストで確認→内申点の積み上げ→高校受験」という流れが明確で、学習方針に悩む必要もありません。
内申点は「絶対評価」なのも安心材料です。他人との比較ではなく、各自の努力がしっかりと反映される仕組みになっています。
高校受験なら幅広い選択肢から子供のレベルや適性に合った環境を選べる
中高一貫校だと6年間環境を変えることができませんが、「公立中→高校受験ルート」では、進路の選択肢が広がります。
公立トップ校・公立中堅校・私立特進コース・大学付属校など、子供の興味や適性、学力に合った学校を選べるのは大きなメリットです。
中高一貫校に比べると学習範囲の終了が受験直前にずれ込むことになりますが、実は難関校や中堅校からでも大学合格実績は高く、高校受験ルートからでも上位大学を目指せます。
子供のレベルに合った学校(あえて背伸びをしないで実力相応校に進学する)で評定を上げて、総合型選抜や学校推薦型選抜を利用するルートも確立されています。
いずれにしても、高校から環境を変えることで学習意欲が一気に高まることが期待できます。もちろん、人間関係の幅も広がります。
費用を抑えつつ、家庭の方針に合わせて柔軟に学習環境を整えられる
中高一貫校に比べて、コストを抑えられる点も魅力です。抑えた費用は必要なタイミングでピンポイント補強に活用できます。
中学準拠塾(=定期テスト&高校受験対策塾)、映像授業、通信教育など公立中カリキュラムに準拠した教育サービスが豊富にあり、家庭の方針や子供の適性に合わせて柔軟に活用できます。
小学生のうちは、中学受験塾の代わりに、英語や数学の先取りを進めることも可能です。英語は英検をペースに、数学は数学専門塾を活用して実力をつければ、高校受験で大きなアドバンテージになります。
近年では、プログラミングや探究型学習などの塾(あるいは学習サービス)も増えており、勉強だけに偏ることなく子供の可能性を広げることができます。
中学受験を回避して高校受験を目指す戦略も十分にアリ
中学受験をしない選択は、決して”逃げ”ではなく、将来を見据えた合理的な戦略になり得るのです。
小学生のうちは学習習慣をしっかり確立して、英語と算数(数学)の先取り、中学生からは定期テストと内申点対策を重視して、中学準拠塾や学習サービスを活用して高校受験を目指す。
「公立中→高校受験ルート」が有効な選択肢であることを知っておけば、「中学受験をする・しない」も冷静に判断できるはずです。
詳しく知る:






















