私立中学(中高一貫校)の人気が高まり、多くのご家庭が中学受験にチャレンジしています。
中には、「周りが受験するから、我が家も何となく…」と、明確な目的が定まっていないケースもあるかもしれませんね。
中学受験では、中高一貫校が現実的には進学先になります。中高一貫校には、メリットもデメリットもあります。
両者を理解した上で、中学受験をする明確な目的を定めるのがポイントです。
この記事では、中高一貫校教師歴30年で、自身の2人の子供も中高一貫校に通うライターが、中学受験のメリットとデメリットを実体験と合わせて解説します。
中学受験をする4つのメリット
1.行きたい学校を選べる:教育方針や子供の適性に合った学校を選べる納得感
中学受験をすれば、自分が行きたい学校を選べます。
家庭の教育方針や子供の適正に合った学校に行けるのは、やっぱり魅力的ですよね。公立中だと、そもそも学校は選べません。
大学受験が目標なら進学校タイプ。逆に、大学受験を回避できる大学付属タイプ。その他にも、英語重視の学校や部活が盛んな学校まで選択肢は豊富です。
進学校タイプの中高一貫校の例
特徴的なカリキュラムが魅力の中高一貫校の例
- グローバル教育:八雲学園中学校・高等学校
- 探究学習:足立学園中学校・高等学校
- ICT教育:芝浦工業大学柏中学校・高等学校
大学付属タイプの中高一貫校の例
特徴的な部活が盛んな中高一貫校の例
- 生物部:東京農業大学第一中学部・高等学校
- 鉄道研究部:駒場東邦中学校・高等学校
2.価値観の合う同級生:落ち着いた環境と競い合える仲間の存在が魅力
精神年齢が近い同級生と自然に競い合える環境がある
中学受験をパスしているので、学力、目標、精神年齢などが似通った同級生が集まります。
学力が同程度なので学習内容やレベルも的を絞れます。公立中は学力幅が大きく、どうしてもレベルが下ブレしがちです。
目標や学力が似ているので、自然と競い合える環境があります。大学受験が近づくと、一人、二人…、と勉強のスイッチが入り、触発されるように勉強します。
この時期は、親の働きかけよりも同級生から受ける影響の方が大きいですよね。
何より、6年間も同じ環境で過ごすので絆が深まり、一生の友達に出会えるはずです。
私の勤務校の実例を紹介します。 長期休暇になると、たくさんの卒業生が学校に遊びに来てくれます。 教師も転勤がないので、顔見知りの先生がいるのも、学校に足を運びやすい理由だと思います。 卒業生は、学生時代によく行っていた飲食店で待ち合わせして学校に来るようです。懐かしい気持ちになるのでしょうね。 先生と思い出話をしたら、同級生同士で食事に行くこともあるみたいです。いつまでも仲のいい様子は微笑ましいです。 やっぱり似たもの同士。気が合うのでしょう。卒業後も続く関係は一生の財産です。
中高一貫校では、中学生と高校生が交流する機会があります。部活や行事を一緒にしたり、図書館や食堂など共用スペースでは顔を合わせます。
公立中だと中3は最上級生です。抑えが効かないので、どうしても調子に乗った振る舞いが目に付くものです。
中高一貫校だと、中3と言えども最上級生ではありません。高校生の視線があるので、中学生特有の「イキる」ことが少ないのです。
親の教育方針・価値観も似ているので安心感がある
中学受験を選ぶくらいなので、教育に関心の高い家庭が多いです。もちろん公立中でもそうでしょうが、子供への愛情の深さを感じます。
教育方針や経済レベルが似通っているので、親同士も付き合いやすいです。
やはり、子供は家庭環境に影響を受けて育つので、親の考え方が似通っていると、親としても安心感があります。
3.高校受験がない:6年間切れ目ない先取りカリキュラムは大学受験に有利
6年間通したカリキュラムなので無駄がない
中高一貫校は、高校受験がないので、6年間を切れ目なく活用できます。実にこの仕組みが非常に効率的です。
その代表例が先取りカリキュラム。高2までに6年分の学習内容を終わらせて、高3で入試演習をします。
中学内容の基礎レベルは多くの時間をかけず、その分、前倒しで全範囲を終わらせます。
大学受験では、圧倒的に有利で、実際に有名大学の合格実績では中高一貫校が上位を占めています。
その他にも、基礎から丁寧に教える学校や、「探究学習」「グローバル教育」などの独自カリキュラムを進める学校もあります。
公立中では、3年間でカリキュラムが組まれています。大学受験の準備は高校から始めることになるので、やっぱり無駄があるし、間に合わなくなってしまいます。
【中高一貫校「先取りカリキュラム」詳細解説】
中学時代は好きなことに熱中できる
高校受験がないので、中学時代は好きなことに熱中できるのも魅力です。もちろん、大学受験に向けて勉強を進めるのもアリですが、部活や趣味に熱中するのも良い経験です。
中学で満足感が高まることで、高校からスムーズに受験勉強にシフトする流れがあります。
我が家の実例を紹介します。 中高一貫校に通う長男は、中学時代は部活ではなく、外部のクラブチームでサッカーをしていました。 部活よりもハイレベルな環境でサッカーに打ち込みました。高校受験がないので、中3の11月まで、全国大会を目指していました。 チームはあと一歩のところで敗退しましたが、心行くまで大好きなサッカーができたのは良い経験です。 高校からは部活でサッカーを続けています。チームメイトも勉強とサッカーを両立しているので、長男も競い合いながら頑張っています。
4.充実した教育環境:快適な学習環境で学校生活の満足度UP
私立学校はダイレクトに設備投資できるので、設備が充実しています。中高で共有している設備もあり、規模も大きいです。
人工芝グラウンド、冷暖房完備アリーナ、開放的な図書館やカフェテリア、快適な学習スペースなど環境や設備が充実。快適な環境に通うだけで、テンションが上がるものです。
タブレット端末を活用したICT教育、習熟度別で手厚く指導する少人数クラス、ネイティブスピーカーによる英語レッスンなど、学習面でも私立ならではの工夫があります。
高い教育効果が得られるだけでなく、学校生活の満足度が高まります。楽しく学校に通ってくれると親としても嬉しいですよね。
中学受験をする3つのデメリット
1.大きな経済的負担:「学費」だけでなく、必要経費や塾代まで要検討
私立だと学費が高額です。加えて、交通費、昼食代、修学旅行費などの必要経費も高くなります。
経済的に裕福な家庭が多いこともあり、交際費も増える傾向があります。
中学受験のための塾代も大きな負担です。
特に、首都圏の中学受験は加熱気味で、塾の授業について行くための家庭教師や個別指導、入塾テストに向けて低学年から塾通いなど、想定以上の経費がかかるケースもあります。
公立中の学費と必要経費だと、それほど高額にはなりませんよね。
【中高一貫校の学費を解説した記事はこちら】
2.環境を途中で変えられない:思わぬ成績低迷で実力が発揮できない可能性も
成績が低迷して完全にやる気を喪失するケース
6年間一貫のカリキュラムとトレードオフですが、途中で環境を変えることができません。
成績が低迷して勉強について行けなくなっても、自分のレベルに合った学校に変われません。
レアケースではありますが、6年間成績が低迷してやる気を完全に失い、本来のポテンシャルを発揮できないまま卒業してしまう生徒もいます。
勤務校の実例を紹介します。 途中で転校の申し出をする生徒が、数が多いわけではないのですが、以前よりも増えています。 生活が乱れて素行が悪くなるのではなく、成績不振が主な原因です。このまま高校に進級して、勉強に追われるのが不安を感じているようです。 入試に合格しているので、本来の学力(=ポテンシャル)には問題ないはずですが、成績低迷が続くと、勉強に対する「やる気」が萎えてしまいます。
【中高一貫校の授業の対応には家庭学習が不可欠】
【成績不振からやる気を失うメカニズム解説】
友人関係や部活で行き詰まるケース
いじめや喧嘩などで友人関係で行き詰まっても、環境を変えられません。
また、中高一貫で強化している部活に入部した場合、補欠や怪我などで思い描いた活躍ができないこともあります。
高校からはさらにハイレベルな選手が入ってきますが、途中で環境を変えることが出来ません。
3.子供に大きな負担:受験のために小学生らしい時間を失うことも
中学受験のために、小学生らしいノビノビとした時間を失います。
入塾の低学年化が進み、小4から通塾を開始したり、有名塾の入塾テストのために、低学年から勉強に追われる人もいるくらいです。
入学後も、環境に慣れるのに負担を感じるケースもあります。
地元の友人と別々になったり、遠距離通学だったり、課題やテストが多かったりと、負担は決して小さくありません。
中学受験をするべきか、家庭ごとに判断するには? 4つのチェックポイント
周囲に感化されて、「何となく中学受験をした方がいいのかも」と感じているご家庭もあるかも知れませんね。
明確な目的意識がないまま中学受験をすると、せっかく合格した学校で後悔することにもなりかねません。
中学受験の「メリット」と「デメリット」を紹介しましたが、ここからは、中学受験を決断するためのチェックポイントを解説します。
【中学受験のチェックポイント】 ①「学費」:6年間の学費・その他経費は大丈夫か?中学受験塾の費用は大丈夫か? 私立は高額で無理と先入観を持たずに検討。 ②「学歴」:先取りカリキュラム・ハイレベル同級生と競い合う環境は大学受験に圧倒的に有利。難関大志望が明確なら中学受験を検討。 ③「さまざまな体験」「落ち着いた学習環境」:勉強はしっかり取り組んだ上で、さまざまな体験ができる。精神年齢や目標が似ている同級生と過ごせる環境は安心。体験や環境重視なら中学受験を検討。 ④「高校受験」:思春期の中3は親の制御が難しい。内申点重視の高校受験だと下ブレリスクがあります。ある程度、親が制御できる小学生のうちに受験を終わらせたいなら中学受験を検討。
【チェックポイント①】「学費」:「公立中+塾」だと中高一貫校とほとんど変わらないケースも
最初のチェックポイントは「学費」です。
途中で「払えなくなりました。転校します!」という訳にはいきませんよね。
教育は「無償」と考えれば、「中学、高校で学費を払うなんて?!」と思うかも知れません。
一方で、費用をかければ、それだけ良い選択肢があるのも事実です。
「私立は高いから我が家には無理」と最初から選択肢から外してしまうのではなく、「費用をかけてでも行きたい学校はないか?」という視点で検討して欲しいです。
我が家は「サラリーマン共働き家庭」で、標準的な経済力ですが、2人の子供は中高一貫校に通っています。
日々の暮らしで贅沢はできませんが、何とかなるものです。むしろ、子供の学校生活の満足度を鑑みれば、中高一貫校を選んで良かったと思っています。
更に、公立中でも高校受験のために塾に通うケースが増えるはずです。
「中高一貫校+塾なし」と「公立中+塾」なら、実は費用面で大差はありません。
勤務校の実情を紹介します。 意外に思うかもしれませんが、成績上位の生徒は中学時代は塾にあまり行っていません。学校の授業が先取りになっているので、学校の授業をペースメーカーにして勉強を進めています。 むしろ、学校の授業について行けない生徒が、サポート目的で塾を利用しているようです。 学校でも、質問対応や補習などでサポートしているので、実際には中学時代は塾は必要ありません。 高校進級後は、大学受験を見通して塾利用が増えていきます。高3になる頃にはほとんどの生徒が塾に通っているようです。 【中高一貫校の塾利用に関する記事】
【チェックポイント②】「学歴」:何が何でも難関大と思うのであれば、中高一貫校の学習環境は魅力
続いてのチェックポイントは「学歴」です。
親としては、子供に「学歴」(「〇〇大学卒」というステータスではなく、社会に出るまでに身につけた知識、技術、経験という意味)を授けてあげたいと願うのは、自然ですよね。
とりわけ、東大・旧帝大・医学部などの難関大を志望するのであれば、中高一貫校の先取りカリキュラムは圧倒的に有利です。
進学校タイプの中高一貫校にはハイレベルの生徒が多く、競い合う環境があります。
【チェックポイント③】「体験」や「環境」:大学入試を見据えた上で、さまざまな体験と安心できる環境
続いてのチェックポイントは「体験」と「環境」です。
親としては、学歴は大事だと思います。しかし、我が子に「何が何でも難関大」とまでは望んでいないから、中学受験は必要ないと考えていませんか?
中学受験を目指している段階で、ほとんどの家庭で大学受験は視野に入っています。
つまり、中高一貫校では、大学受験は当たり前で、その上で、「体験」や「環境」が充実しているのです。
(言い方は良くないですが)そこまで偏差値の高くない中高一貫校でも、有名私立大学をはじめ、十分な進学実績があります。
勉強をしっかり取り組んだ上で、子供に合う体験を重視して、快適な環境で6年間を過ごして欲しいと考えるなら、中学受験を検討しましょう。
実は、個人的には中学受験を目指す家庭のボリュームゾーンはここだと思っています。
中高一貫校は「難関大志望」や「富裕層」の学校とイメージする人がいるかもしれませんが、必ずしもそういう訳ではありません。
【チェックポイント④】「高校受験」:思春期の高校受験を回避して、親がコントロールできる内に入試を終わらせる
最後のチェックポイントは「高校受験」です。
中学受験を検討している段階では、「高校受験」まで考えが及ばないかもしれませんが、重要な視点です。
中学3年生といえば、思春期真っ只中。親の言うことを聞かないのが当たり前です。
加えて、高校受験は内申点重視。定期テストを真剣に取り組み、提出物や授業態度をこなさなければいけません。その意味で、真面目さが求めらるのです。
親がコントロールできない状態で高校受験を迎えてしまうと、思いがけない下ブレリスクがあるものです。親の意向とは違う高校に進学する可能性が大いにあります。
その点、小学生ならまだまだ親がコントロールできます。親の意向を進路に反映させたいなら、中学受験を検討してみましょう。
受験を早めに終わらせてしまえば、6年間を有効活用できます。
投稿者プロフィール


- 中高一貫校指導歴30年のベテラン教師です。勉強が得意な生徒から苦手な生徒までたくさんの生徒を指導してきました。念願叶っての中高一貫校だと思います。充実した6年間を過ごして欲しいものです。ベテランならではの視点で悩みに寄り添ったアドバイスを心がけます。ちなみに2人の子供も中高一貫校に通っています。保護者としての目線も大事にします。